これまでの人生を振り返ったとき、そこにどんな椅子があったろうか、これからの人生を思うとき、そこには良い椅子が共にあってほしい。椅子は人生のパートナー、良い椅子があって生まれる風景は「余裕」「ゆとり」「贅沢」の象徴だ
椅子ほど面白い家具はない。「名作」と呼ばれる、憧れられる椅子がある。
当サイトでは、名作椅子の定義として、識者による客観的な視点を大切にした。すなわち「何らかの権威ある賞を受賞している椅子」を名作椅子の定義とした。
当サイトの名作椅子の定義にしたがい、以下で8点の椅子をご紹介したい。実用性とデザイン性が両立した名作椅子を、あなたのその目で感じ取ってほしい。
2010年より、「前作よりも優れたものが作れた」と納得できた段階でモデルチェンジを重ねてきたcocoda chair。「一点物作品のクオリティーと美しさを満たした製品づくり」を掲げるブランド、KOMAがフラッグシップと謳う椅子である。2021年、世界で最も権威あるデザイン賞の一つ、Red Dot Award(ドイツ)を受賞した作品。
京都工芸繊維大学と相合家具製作所の産学連携により創造されたデザインチェア。「薄さを追求した上部のモールドウレタン、細さを追求した脚部のアルミレッグ」をメインテーマに、知識と技術を結集させた作品を実現させた。グッドデザイン賞(2019年/日本)、iF DESIGN AWARD(2021年/ドイツ)の両賞を受賞。
1950年、カール・ハンセン&サンとハンス・J.ウェグナーの協働によりリリースされた作品。販売から70年以上を経た今もなお、世界中の多くの人から愛用されている名作である。特徴ある美しいフォルムはもとより、快適な使用感を追求した実用性の高さでも定評がある。2020年、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞受賞。
国際的な製薬会社・ノボノルディスク社(デンマーク)の社員食堂に設置する椅子として、著名デザイナーのアルネ・ヤコブセンがデザインしたチェア。フリッツ・ハンセン製のチェの中では、代表作の一つである。背と座が一体となる局面設計のチェアは、この作品が世界初。2019年、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。
「デジャヴ」という名にも込められている、どこか懐かしさや既視感のあるデザイン。磨き上げられたアルミニウムの質感とのマッチングで、リビング・ダイニングなどに独特の空気を創出する。著名プロダクトデザイナー・深澤直人氏の作品。2007年、インテリア・イノベーション賞ベストアイテム賞(iMM ケルン)賞を受賞。
日本の固有種である「杉」を素材としてセレクトし、家具用途に耐えられる強度を持たせるべく圧縮技術を採用。のみならず、「杉」ならではの木目を活かすべく、世界初となる杉圧縮柾目材を開発した。強度と美観を両立させた、世界に誇る日本の名作チェアの一つである。デザイナーは川上元美氏(川上デザインルーム)。2014年、グッドデザイン賞を受賞。
名匠・コンスタンチン・グルチッチ(ドイツ)が生み出した代表的な作品。立体的な三角形を随所に採用したユニークで斬新、かつスタリッシュなチェアである。屋外での使用やスタッキング(積み重ね)も可能。ブループリント賞(2003年)、オデルツォデザイン賞(2005年)、ドイツ・デザイン賞受賞(2006年)など数々のタイトルを獲得している。
「Air」という名と重なるような軽やかでシンプルなフォルム。屋外使用や10脚までのスタッキング(積み重ね)もできるなど、実用性も十分に考慮されて生まれたチェアである。デザイナーは、世界的重鎮として知られるジャスパー モリソン(イギリス)。ブループリント賞(2000年)、CATAS2000賞(2000年)、グッドデザイン賞(2001年)、Observeur du Design賞(2001年)などを受賞したほか、複数の博物館・美術館のパーマネントコレクションに選定されている。
冒頭で確認した通り、当サイトでは「何らかの権威ある賞を受賞している椅子」を名作椅子の定義としている。しかし実際には、この定義に当てはまらないものの世界的に「名作」と名高い椅子が存在することも確かだ。以下では、その意味での「名作」に該当する椅子を8点ほどご紹介したい。
良質なアルミニウムを原材料としたemeco(エメコ)のネイビーチェア。ブランド独自のアルミニウム配合により、強靭にして軽量、優れた耐久性を実現したemeco(エメコ)の名作の一つである。機能性の高い素材として知られるアルミニウムだが、他方でアルミニウムは、優しさや温かさを感じさせる芸術的な素材としても注目されている。当作品は、クラシックからモダンまで、いかなる風景にもなじむベーシックなデザインの椅子である。
1958年に発表されたHerman Miller(ハーマンミラー)のロングセラー、イームズシェルチェア。「快適さ」と「多様性」を極限まで追求した作品として著名だ。「快適さ」としてデザイナーが追求したのは、深い座面と柔らかな背もたれ。それぞれ別々にデザインを考え、のちに融合させた。「多様性」に関しては、生活のあらゆるシーンを想定して椅子のベースを制作。仕事場、ダイニング、リビングなど、いかなる場所でも違和感なく使える設計とした。素材展開やカラー展開が多彩である。
ドイツを代表する老舗の家具ブランド、THONET(トーネット)。高級家具に関心のある方ならば、「曲げ木家具」の家具ブランドとして、その名をよくご存知のことだろう。こちらでご紹介しているカンチレバーチェアは、そんなTHONET(トーネット)を代表する名作椅子の一つ。ブランドの持ち味である「曲げ木」ではなく、実にスチールパイプ製の椅子である。シンプルな「S32V」とアームレスト付きの「S64V」の2種類を展開しているが、いずれもよく知られている作品だ。個人邸宅はもとより、レストラン、会議室、待合室など、あらゆるシーンにマッチするシンプルなデザイン性である。
パリを始めとするフランスのカフェなどで、このチェアを見たことがないだろうか?ご紹介している「エーチェア」は、同国を代表する家具ブランドの一つ「TOLIX(トリックス)社」が1934年にリリースした著名なロングセラーである。デザイナーは、ブランドの創業者でもあるグザビエ・ポシャール。スチールに亜鉛を配合した奥行きある光沢、汎用性のあるデザイン、軽量化の実現などを理由に、商業的にも大ヒットした作品である。今もって世界中から注文が絶えない。
THONET(トーネット)の持ち味である「曲げ木」技法が世に知られるきっかけともなった作品。数々の名作を生み出してきた同ブランドだが、この「No.14」は、ブランドを大きく方向づけた伝説的な椅子である。発売されたのは1859年。以後、すでに150年以上を経過しているものの、現在もなお生産は続き、世界中で愛用されている。一切のムダを省いた「シンプル・イズ・ベスト」を追求したデザイン性とその完成度の高さを背景に、これまで実に5000万脚が出荷されている。
コルビジェらと並び「20世紀建築の三大巨匠」の一人、ミース・ファン・デル・ローエがデザインしたチェア。1929年にバルセロナ万博のドイツ館で、当時の国王だったアルフォンソ13世を迎えるためにデザイン・製作された椅子である。クロームメッキのフレーム、上質で深みのある革張りの座面と背もたれ。ローマ時代の権力者が好んだとされているX字の脚もコンセプトに交えるなど、機能性と精神性の至高を追求した名作中の名作である。
今でこそチェアの素材として定番ともなったスチールパイプだが、このワシリーチェアが誕生する前はスチールパイプ製の椅子は一般的ではなかった。かつ、このワシリーチェアがリリースされてから、コルビジェやミースなどの巨匠がスチールパイプ製の椅子をデザインし始めた。これらの事実に鑑みれば、世界中にあるスチールパイプ製の椅子は、まさにこのワシリーチェアから始まったと言えるだろう。デザイナーはマルセル・ブロイヤー。のちにバウハウス教授も歴任したドイツの巨匠デザイナーである。
「アームチェア41・Paimio」は、フィンランドの著名な建築家であるアルヴァ・アールトとその妻アイノによって、1932年にデザインされた椅子である。結核患者のための療養施設で使用される目的で製作された椅子であり、その療養施設が存在したPaimioという地名をそのまま作品名とした。ちなみに同作品は、上でご紹介したワシリーチェアから想を得て生まれたものであることを、アールト本人は語っている。「ラメラ曲げ木」と呼ばれる技法を駆使して作られたこの椅子は、現在もなおアールトの代表作の一つとして著名である。
著名な日本人プロダクトデザイナー、深澤直人氏が手がけたアームチェア。シャープな輪郭ながらも、見る者の角度によってやわらかなシルエットが生まれる、高い芸術性を備えた精巧なチェアである。なだからに描かれた曲線、および脚へとつながる接合部には、ほとんど継ぎ目が見られない。職人による丹念な手作業が背景に感じられる。体馴染みの良い工夫された形状なので長時間座っていても疲れにくい。
アルゼンチン出身の3名のデザイナー(アントニオ・ボネット/フアン・クルチャン/ホルヘ・フェラーリ=ハードイ)により、1938年に発表されたチェア。1855年にイギリスのエンジニアのヨゼフ・フェンビィがデザインしたチェアにインスピレーションを得て作り上げたチェアだと言う。屋外の景色を臨むリビングや、晴天の日のデッキなど、休日をゆっくりと過ごす場所にマッチする優雅なデザインである。チェア名にある「BFK」とは、デザイナーそれぞれの頭文字を並べたもの。
1872年創業のデンマークの名門家具ブランド、フリッツ・ハンセンから発表されているエッグチェア。座面の丸みある形状が、まさにエッグを表しているかのようにユニークである。アルネ・ヤコブセンによりデザインされ、デンマークでは「不朽の名作」と評する声も聞かれるほどの作品だ。デザイナー自身のガレージにおいて、ワイヤーと石膏を使った幾度とない試作の繰り返しから生まれたチェアだという。
デンマークを代表する家具デザイナーの一人で、日本でも非常に著名なハンス・J・ウェグナー。その生涯の中で数百という家具をデザインしてきたウェグナーだが、そんな彼を代表する作品の一つが、こちらでご紹介しているThe Chairだ。過度な主張を抑えつつ、座った人を主役に引き立てる不思議な魔力を持つThe Chair。「楽に座ることができるとともに、座っている時に自分を堂々と見せてくれる椅子」を求めていたJ.F.ケネディは、最終的にこのThe Chairを選んだ。
1938年創業のニューヨークのファニチャーブランド、Knoll(ノル)が1952年にリリースしたDiamond Chair。デザインを担当したのは、イタリア出身のデザイナー・彫刻家、ハリー・ベルトイアである。異なるスチールロッドを曲げながらダイヤモンド型に溶接固定する技術、そして発想だ。ベルトイアいわく、当作品は「空気と鋼の彫刻」であるそうだ。椅子の形をした現代彫刻と言うところだろうか。実用性あるチェアでもあるが、ディスプレイとして置いても悪くない。
著名な日系アメリカ人デザイナー、ジョージ・ナカシマが手がけたグラスシートチェア。「木の美しさをそのまま椅子にした天才」と言われるジョージ・ナカシマが初期に手がけた作品群の中でも、このグラスシートを傑作と評する人は多い。素朴なウォルナットの無垢材と天然のい草で作られた、温かみを感じさせる椅子である。2008年、高松にジョージ・ナカシマ記念館が開設されたことをきっかけに、一般にも広くその名が知れるところとなったようだ。
ニューヨークの高級家具ブランド、Knoll(ノル)から販売されているPlatner Collection Easy Chair。アメリカ生まれの著名家具デザイナー、ウォーレン・プラットナーが1966年にデザインしたチェアである。デザインそのものをシンプルにまとめながら、曲線による個性を最大限まで追求した存在感ある作品だ。モダンかつエレガントな風格を演出しているそのチェアは、住宅はもとよりパブリックなどのあらゆるシーンにマッチするだろう。
1905年に創業したアメリカの高級家具ブランド、ハーマン・ミラーからリリースされているEames DCM(Dining Chair Metal)。家具製作や映像制作、展示会プロデュースなどの多彩な才能で活躍した夫婦、チャールズ&レイ・イームズがデザインしたチェアである。成形合板を巧みに組み合わせたスマートなデザイン性、全体的な軽やかさ、快適な座り心地。無駄を極限まで省いたデザイナーズチェアとして、この作品を「歴史的名作」と評する声も多い。