イタリア出身でアメリカで活躍、ミッドセンチュリー時代を代表するデザイナー、ハリー・ベルトイアの代表作のひとつとされるベルトイア サイドチェアについて、その魅力や特徴などをご紹介したい。
ハリー・ベルトイアが手掛けた「ワイヤーコレクション」の代表格であり、ダイヤモンドチェアと並んで知名度の高い作品がこのサイドチェア。両者はともに、1952年にお披露目されている。彫刻家でもあったベルトイアの造形美へのこだわりが感じられる仕上がりとなっている。
ベルトイア サイドチェアの特徴はひと目みて分かる通り、メインの素材にスチールワイヤーを用いて網目状に組み上げ、なだらかな曲線を持たせた造形に仕上げられているという点。元々彫刻家として活躍しており、ワイヤーを素材として積極的に用いていたハリー・ベルトイアが、そうしたノウハウや発想を活かしてデザインしたことが知られている。
ワイヤーが織りなすラインは一見すると画一化されているように思えるが、実は曲線の動きに合わせ、ひとつひとつ異なる網目となっている。また、その曲線が生み出す造形は、ワイヤーの網目を通して背景がどのように見えるかという点までを計算した上でデザインされているのだ。ともすれば無機質で冷たい印象となってしまうスチールワイヤーという素材で、透明感や柔らかさを感じさせるようなデザインに仕上げているというのが、まさに秀逸と言えるだろう。
スチールワイヤーが発表されたのは1952年。手掛けたのはミッドセンチュリー時代の代表格と称されるデザイナーであり、彫刻家や金属加工の技術者としての顔も持っていたハリー・ベルトイア。1915年にイタリアで生まれ、1930年には家族とともにアメリカに移民。工科大学卒業後は美術アカデミーで学び、その才能を見出したのがフローレンス・ノルだ。
KNOLLの工場の一部をベルトイアに工房として提供したことで、ベルトイアは自由な創作活動に没頭できた。この環境から生み出されたのが、他ならぬベルトイア サイドチェアであり、またもうひとつの代表作として知られるダイヤモンドチェアだ。
なお、ベルトイアが家具をデザインしたのはこれらのダイヤモンドシリーズが最後であり、その後は彫刻家としての活動にシフトしていくことになる。そうした意味でも、貴重な存在と言えるだろう。
1938年、アメリカのニューヨークにて設立。創業者のハンス・ノールはドイツ生まれ。「近代建築には、近代家具が必要」という信念を掲げ、アメリカにおける近代家具のデザインを精力的にリードした。KNOLL(ノル)の歴史は、そのままアメリカ近代デザインの歴史であると言わしめるほどに、デザイン性にこだわった家具を精力的に送り出してきた。
本ページで取り上げているハリー・ベルトイアはもとより、かのイサム・ノグチをはじめとする芸術家やエーロ・サーリネンやフランコ・アルビーニといった著名建築家とのコラボを積極的に実施している。なかでも知名度が高いのはミース・ファン・デル・ローエが手掛けたバルセロナチェアが挙げられる。アメリカの近代デザイン史そのものと称される理由は、あくなきデザインへの探求心ゆえと言えるだろう。
KNOLL(ノル)がこれまで世に送り出してきた家具は、芸術家の感性を存分に活かしたデザイン性を具現化しているのが特色であり、同ブランドならではのこだわりでもある。今回紹介したベルトイア サイドチェアも、まさにそうした哲学を具現化したものと言ってよいだろう。
さて、世界の高級家具に目を向けてみると、ベルトイア サイドチェアと同様に、名作家具として広く評価を集めている椅子は、他にもまだ存在する。以下のページにて、それら名作椅子を一覧でご紹介しているので、関心のある方は引き続きお読みいただきたい。